1: AIと恋愛 / 2: アプローチ / 3: 思考の欠損 / 4: 我が創作の根底 / 5: 改憲論議 / 6: 京マチ子逝く / 7: 半減 / 8: CO2 / 9: 「平坦」ではなくなった / 10: バッハ「世俗カンタータ」より / 11: ドゥダメル / 12: 座産土偶 / 13: 改正憲法 / 14: 神 / 15: 真理はない / 16: 無 / 17: メンデルスゾーン『交響曲第2番』 / 18: don / 19: 道元 / 20: 琴とオーケストラの協奏曲 / |
【漢字の変奏曲】
芋粥をたらふく食べたいという願いかなって、この数ヵ月、プロジェクター映像を見ながら音楽鑑賞三昧でした。ところが『芋粥(芥川龍之介)』よろしく流石に聞き飽きたころ、新聞の書評にあった『文字渦』という本に興味をそそられ、購入して読みはじめたら、なんと! アンプのスイッチを入れることもない『絶対臥褥(森田正馬)』の状態になりました。そして今日、数日かかって読了したのであります。 物理系から学際系へと遷移し、しばらくウェブエンジニアをしてたらしい作者の円城塔氏のことを、僕は知りませんでした。このことは僕にとって驚くべきことではありません。なにしろ日本人の書くフィクションには、この数十年、興味を失っていたのですから。もともと、日本の(純文学的)「フィクション」はほとんど私小説や青春物語の域を出ていないと思うのです。夏目漱石しかり、川端康成しかり、その他その他。例外的に(僕の知っている限り)安部公房や三島由紀夫の作品がありますが、前者は内容のない鼻につく台詞が多く、自己陶酔の後者は美意識が先行していて思想が浅い;というわけです。 読みはじめて、ロジャー・ペンローズ著『皇帝の新しい心』ほか何冊かの未読了書の仲間に入るかと憂鬱になりました。が、しばらく読み進めると、理系の頭脳が文字・漢字に取り憑かれたらこうなるか! というほどの偏執ぶりに驚倒。いまや機械仕掛けの箱の中にある文字・漢字(思考)のプログラミングや、無限後退、左右上下表裏斜回転対称を繰り返し、並行宇宙を生きる! という基本構造が見えてきて、それを楽しみはじめると、これまでに読んだことのない類いの文章であることに気付き、さらに「話」を進めるごとにコミカルな要素が加わりました。〔アミダ・ドライブ〕という「転生システム」を開発した旅行会社の話『金字』などは抱腹絶倒、文字さんたちと一緒に転生旅をしたのであります。 最後に、実はこの書籍、小説でもエッセイでもなく、【漢字の変奏曲】であることに気付いてニンマリしたのでした。 さて、この書籍の文字組みは、文字は「活字としての実体さえ捨て情報的な存在とな」ったから可能になったのです(昔の活字の組み版では絶対に不可能でした)。 2018/08/23(Thu) 17:37:41 [ No.3202 ] |